診断の日

悪性リンパ腫

病院で医師から「悪性リンパ種です」と告げられた瞬間、時間が止まったように感じました。
ただ医師の目を見つめたまま、声も出ず、体も動けませんでした。
診察室の空気だけが急に重くなり、自分だけが別世界に取り残されたようでした。

「なぜ自分が」その問いが頭の中をぐるぐると回りました。
すぐに家族の顔が浮かび、「妻にどう伝えよう」「両親を悲しませてしまう」と考えると胸が締めつけられました。
医師が次の説明をしていても、耳に入ってくる言葉は意味を持たず、ただ遠くで誰かが話している音のようにしか聞こえませんでした。お金のこと、仕事のこと、自分のこれからのことも一気に押し寄せてきました。
「治療費は?生活は?これから何をすればいいんだろう」
考えれば考えるほど答えは見つからず、頭の中はぐちゃぐちゃになっていきました。
不安や恐怖が一気に押し寄せ、呼吸が浅くなるのを感じました。

診察を終えると、別の部屋でPET検査と入院の日程を告げられました。
ノートに書かれた日付を見ながら、心はどこか遠くにあるようで現実感がありませんでした。
未来が勝手に予定で埋められていくような感覚に、ただうなずくことしかできませんでした。

病院を出ると、外の空は晴れていて人々が普段通りに行き交っていました。
車もいつも通り走り、世界は何も変わっていない。
けれど、自分の目に映る景色はすべて色を失ったように見えました。
「昨日までの自分」と「今日の自分」との間に、深い溝ができてしまったようでした。

駐車場に停めた車の中から、妻にスマホで連絡しました。
「悪性リンパ種だった」そう伝えると、電話の向こうで泣く声が聞こえ、胸が張り裂けそうになりました。
妻に心配をかけたくないのに、結果として涙を流させてしまった。
その現実がさらに重くのしかかりました。

そのまま実家へ向かい両親に報告すると、心配そうな顔で「大丈夫なのか」と何度も聞かれました。
けれど自分は答える言葉が見つからず、ただ「うん」と頷くしかありませんでした。
両親を安心させたいのに、逆に不安を与えてしまっている自分に無力さを感じました。

帰り道、気持ちを整理したくて近くの大きな公園に車を停めました。
人けの少ない隅に腰を下ろし、最後の一本のタバコに火をつけました。
夜風に煙を吐き出しても、胸のざわつきは少しもおさまりませんでした。
「タバコを本気で辞めなければいけない時だ」その思いが強く心に響き、この日を境に長年続けてきたタバコをやめました。

夜、自宅に戻り布団に入っても眠れませんでした。
診察室での言葉、妻の涙、両親の心配そうな顔が何度も頭に浮かび、呼吸が苦しくなりました。
時計の音や外を走る車の音が、まるで自分を追い詰めるかのように大きく響きました。
「眠らなければ」と思えば思うほど、ますます目が冴えていき、長い夜が続きました。

翌朝、体は重くても仕事へ向かいました。
通勤の車の中で、入院までにどれだけ仕事を引き継げるかを考えました。
会社への報告の仕方も頭の中で何度もシミュレーションしました。
身近な人にはきちんと説明し、いなくなる準備をしておかなくてはならない。
「動揺している暇はない」と無理やり自分に言い聞かせていました。

勤め先は6人だけの小さな会社です。
だからこそ、社長に直接伝えるしかありませんでした。
「悪性リンパ種と診断されました」と報告すると、すぐに「ステージは?」と聞かれました。
「1です」と答えると、「それなら大丈夫だ」と少し安心したように言われました。

引き継ぎについても説明しましたが、社員たちは「同じようにはできない」と不安そうでした。
私は「なるようにしかならない」と伝えるしかありませんでした。
それが精一杯の言葉でした。

 

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コメント

  1. モンチ より:

    私の家族と同じ境遇でとても悲しくなりました
    けれどとても気持ちがわかりこれからも頑張っていってほしいです。どうかお身体も良くなりますように♪

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